白色度70活動は今、ボランティアから社会の仕組みへ
コーディネーター三橋規宏[千葉商科大学教授・元日本経済新聞論説委員]
パネラー横島庄治[高崎経済大学教授・元NHK解説委員]
坂 荘二[日本製紙株式会社代表取締役副社長]
藤塚哲朗[環境省 総合環境政策局 環境経済課 課長補佐]
西野和雄[東京都 環境局 排気物対策部長]
松本秀作[日本青年会議所 副会頭]
半谷栄寿[オフィス町内会事務局代表]

※役職は当時のものを記載

 
白色度70運動のパートナーシップ
 
三橋 数年前、岡山県の開業医で「アジア医師連絡協議会(AMDA )」のリーダーをしている方にお会いしたことがあります。その彼が私に言った言葉が、非常に印象的でした。
 「緊急医療活動を行うのに医者は5人もいらない。医者は1人でいいのだ。医者1人と優秀な看護婦、薬剤師、運転手、その現場に自分たちを運んでくれる優秀なガイド―この異業種の人たち5人が協力体制を組むと、非常に強力で機敏な医療活動ができる。これから世の中を変えていくには、異分野、異業種の人たちの多様な力を結集することが必要ではないでしょうか」。私もその通りだと思っています。
 汗を流すことはなかなか大変です。口で言うのは楽、行うは難しい。この難しさを克服する道は、異業種、異分野、さらに世代間を超えた人々の信頼にもとづいた、ハイブリッドな人の輪を作り上げていくことだろうと思います。
 そのハイブリッドな輪の典型的な例が、「オフィス町内会」だと私は理解しています。さまざまな人たちが能力と技能を結集して、オフィス町内会を今日まで広げてきたわけです。
 そこでまず、白色度運動のスタート段階から参加してこられた、横島さんにお話をうかがいたいと思います。

横島 オフィス町内会の『白色度70がちょうど良い』という本を出すときに、「ちょうど良い」につなげる標語を何か書いてと注文されました。そこで私は「一昔前くらいがちょうど良い」というのを、苦しみながらひねり出してみました。
 一昔というよりは四つぐらい昔かもしれません。江戸時代はリサイクルのモデルだとよくいわれています。その最大のものは、水のリサイクルでした。
 長屋のおばさんたちが井戸の水をくみ上げながら井戸端会議をやっている風景によく出会いますが、あれは実は本当の井戸ではありません。玉川上水や神田川の上水が地下に流れてたまった水です。苦労してくみ上げた水ですから、水は相当に使い回しをしておりました。
 例えば、お風呂のお湯は1日で使うなどとてもできません。冬場なら1週間ぐらい何度も使って、それもなるべく中に入らないようにかけ湯で、お風呂の水をロングユースしました。最後にもうここまでかと思ったお水で洗濯をします。洗濯の水も1回で捨てるわけではありません。きれいなものから洗って、最後におむつを洗います。おむつを洗ったあとに残る水は汚れております。それは捨てたかというと、捨てずに庭先の植木にまいて肥料にしました。おむつから出てくるいわば糞のリサイクルまでしたのです。こういう水づかいの賢明さがきわだっていました。
 そして糞尿もすべてリサイクルしていました。農家が有機肥料にしていたのです。フランスやイギリスは糞尿を全部捨てていたために、パリなどは当時臭くて仕方がなかった。そのためベルサイユ宮殿を郊外に造ったという裏話もあるくらいです。
 日本では糞尿を有機肥料に使ったおかげで、都市はにおいもなく清潔でした。農家の人たちは貴重な有機肥料を江戸の市中に取りにきて、野菜やお米をおみやげに置いていった。物々交換までして糞尿の有効利用をしていたのです。糞尿は優秀なリサイクルモデルでした。
 もう一つ、江戸時代の優秀なモデルが紙です。例えば、障子紙。これも長く使って黄ばんで、もういよいよというときです。私も小さいころやったことがありますが、障子紙をはがすときには、川とか井戸の水でぴたぴた浸してぱあっと開くと、さん桟からきれいにはがれます。障子紙の大きさの紙で抜き取れるわけです。
 これをどうしたでしょうか。ご年配の方はご記憶があると思いますけれども、半紙大に切ってお習字の練習用紙にしました。それで終わったかというとうそでして、お習字で使った紙をさらに使い回します。びろう尾籠な話ですけれども、便所の落とし紙に使ったと記憶しています。したがって、勝手な想像ですが、江戸時代の人のお尻は少し黒っぽかったのではないでしょうか。でもそのくらい紙を大切にしました。
 紙の原料に使うコウゾは、根っこから切って木質繊維をとりだすのではなく、実は秋に枝だけを切り落として、その枝の皮をはいですいておりました。ですから、本体の木は何年も使えたわけです。毎年生えてくる新芽だけで紙をすいていたのですから、コウゾの木そのものもロングユースのリサイクルをしていたのです。やはり日本人にとって、紙のリサイクルは原点でした。
 その意味で、オフィス町内会が最初に取り上げたオフィスごみのリサイクル問題は、日本人に最もなじみの深いテーマです。日本人の遺伝子の中に、紙を大切にしようという心がしっかり根づいていたことと、ぴったり合った運動だったので、私はこのオフィス町内会を高く評価していたわけです。
 そして、7年前に第2弾として出てきたのが白色度70運動です。
 私は三つ、白色度70運動の面白さといいましょうか、ユニークさを評価しておきたいと思います。
 一つは、その着目の新鮮さと遺伝子に訴えるような原点性が非常に良かったことだと思います。ですから、大きな社会的支持を受けたのだろうと思います。
 もう一つは、ユーザー、サプライヤー、メーカーという三つの組織がうまく絡んでこの動きをつくったことです。当初はそれぞれの思惑がばらばらで、一気にスタートできなかった思い出がございます。今日は、その7年目の成果がうかがえるのではないかと思います。
 そして三つめは、オフィス町内会がNGOとして環境運動の原動力となったことです。日本青年会議所や東京都にサポーターになってもらい、運動の旗を振ったオフィス町内会は、NGO的な役割を社会に対して見事に果たしました。
 環境をテーマとした日本の社会運動の中では、この三つの点で、白色度70運動は特筆すべききっかけと経緯、成果を生みました。そのことに敬意を表しつつ、白色度70運動の7年目からの新しい動きをチェックしてみたいと思っております。

三橋 お話にありましたように、日本青年会議所もまた白色度運動の一翼を担ってきました。白色度70運動を全国ベースで広げるうえで非常に大きな貢献があったと思います。

松本 日本青年会議所は、実は本年をもちまして50周年を迎える団体です。会員は全国に6万人おりまして、各地に青年会議所が747ございます。ここ20年近く、継続して環境問題にとりくんできました。
 1993年には地球の有限性を考えた「もったいない運動」を提唱しました。94年にはもったいない運動が世界青年会議所で公認プログラムに認定されました。「もったいない」という言葉がブラジルの教科書に載っていたり、世界の青年会議所の仲間では「もったいない」が公用語になりつつあります。
 そしてもったいない運動で提唱した理念を具現化していく中で、ちょうどオフィス町内会の白色度70運動に出会ったのです。私どもでは組織を挙げて運動を応援しています。オフィス町内会とすすめた白色度70運動は、われわれの成功事例としてシンボリックな担いを持っていると思いますし、啓蒙活動において、青年会議所は非常に大きな影響力を持ってやってこられたと自負しています。
三橋 『白色度70がちょうど良い』という本の中に私も一文書かせてもらっていますが、東京都が白色度70を採用したことが、運動の一つの節目になったのではないでしょうか。相当の分量のコピー用紙を使っている東京都が、オフィス町内会の呼びかけに応じて全面的に白色度70の再生コピー紙を使っていこうと決めたのは、大変な英断だったと思います。
西野 本日のテーマを考える場合に、東京都には二つの側面があると思います。
 一つは、資源循環の観点から、再生紙の利用とか白色度を低くするといった運動を普及する行政としての立場がございます。
 もう一つは、東京都が最大の消費者という立場にあることです。東京都の財政規模は、今現在の正確な数字は分かりませんが、このとりくみを始める前の時点で韓国の国家予算に匹敵する規模です。
 消費者として東京都が再生品の調達を進めることは、再生品使用の拡大につながります。都がこれを率先して行うのは、民間事業者なり都民の方々に再生品の利用を求める際にも必要であるという観点からです。
 まず平成元年から東京都のさまざまな印刷物に再生紙を使い始めました。平成2年からは、コピー紙に古紙配合率70%の再生紙を使い始めました。現在は都庁全体で、新宿の庁舎だけではなく警視庁や消防庁なども含めて、年間約7億5、6千万枚という非常に大量のコピー用紙を使用しておりますので、この取り組みを始めた意義は大きかったと思っております。
 環境局の前身である旧清掃局が、平成7年に、再生品の利用指針を作成致しました。当初は清掃局独自のもので、これを平成8年9月に都庁全体のとりくみとしました。都庁の「再生品利用ガイドライン」で、翌10月から実施しています。
 このガイドラインは、都がコピー用紙や封筒などを購入するときに、古紙を使用したものを選ぶように定めたものです。例えば白い封筒は古紙何十%以上、トイレットペーパーでは古紙100%といったように、品目ごとに古紙配合率の基準を設けました。コピー用紙は、古紙配合率70%とともに、白色度70%を決めています。
 白色度が指標に挙げられてから、東京都は必要以上に白い白色度を求めないようにしてきました。
 こうして東京都が率先して、再生品のイメージアップあるいは初期需要の創出を図ってきたことが、当時メーカーが白色度70の再生コピー用紙の生産をやめる方向にいっていた流れを、少しでも変えたのかと思っています。

三橋 東京都は、許認可の申請書とかも、当然白色度70で出すようにと指導なさっているのですか。

  西野 そこまで指導は徹底していないと思います。私どもは民間事業者あるいは都民の方々からいろいろ書類を受け取りますが、きわめてまれに白い紙が使われているという印象です。東京都に持ってくるからわざわざ使っているのかどうか、その実態は分かりませんけれども。現在ではかなり白色度70が浸透しているという感じを受けます。
三橋 あまり白い紙だと具合が悪いという指導も、これからなさってほしいという感じがいたします。
 さて今年の4月からグリーン購入法が実施されました。法律としては去年の5月に成立したわけです。白色度70の再生コピー用紙は特定調達品目に位置づけられて、今や社会のしくみにもなっているわけです。
 環境省はほかの省庁にくらべ、早くから白色度70運動に着目していました。

藤塚 環境省として白色度70をかなり意識し始めましたころ、実は半谷さんの所におじゃまして話をいろいろお聞きしたのです。その時半谷さんはこうおっしゃいました。
 「国というのは、あなたたちが思っている以上に、非常に大きなバーゲニングパワーがあるのだ。まず国が動けば、マーケットも白色度70に動くのではないか」。
 その後たびたび半谷さんやオフィス町内会の皆さんに、国の職員研修会や催しでお話をしていただきました。
 そしてオフィス町内会の皆さんが始められた白色度70運動が法律になったのです。法律の中できちんと「白色度70」を謳わせることができた。その大きなムーブメントが法律を作ったのです。
 グリーン購入法の施行で国の機関は、白色度70のコピー用紙を使った量―正確には、使ったコピー用紙のうち古紙100%で白色度70のものの量―を毎年度報告することになっております。この義務は、国だけではなく、特殊法人と独立行政法人にもかかります。
 4月の公表結果によると、そのほとんどは、コピー用紙のおおかた100%を白色度70で調達すると宣言しております。
 一方、都道府県市町村については、グリーン購入法は努力義務になっています。これはやらなくていいのではなく、「やるように努めてください」ということです。
 環境省は、都道府県と市町村のとりくみを毎年度調査して、その結果を公表していきたいと思っています。当然、白色度70のコピー用紙の使用状況も含みます。
 現時点では、47都道府県と12政令指定都市のすべてが、白色度70のコピー用紙を使っております。市町村は昨日の段階で、約1,000の市町村が白色度70を使っておりますが、私個人的には、3,300市町村全部に白色度70のコピー用紙を入れていただくように、今後強力に運動をしていこうと思っております。
 さきほど東京都のお話でありましたが、私の所にうち合わせで持ってこられる書類が白色度80だったら、最初にその話を致します。「環境省に紙を持ってこられる以上は、国で決めた基準の紙が当たり前ではないか」と。古い概念がなかなか捨てられない方が多くて困っているところです。

三橋 白色度70の紙を使いなさいというのが行政指導ならば結構ではないでしょうか。
 ご承知のようにグリーン購入法は議員立法でできたのです。去年通常国会で成立した6つのリサイクル関係の法律で唯一の議員立法だったのですが、お役人の頭ではこういう発想はなかなかできない。オフィス町内会の問題提起のしかたが、議員立法というかたちでグリーン購入法に結びついたと思うのです。
 それでは、次にメーカー側から見た白色度70の意味、あるいはその経済性の問題等々をお話しいただきたいと思います。

坂 実は私、日本製紙連合会で古紙技術委員長をしております。昨年のちょうど今ごろ、製紙業界として古紙の利用率(製紙原料に占める古紙の割合)の目標を何%にするか、いろいろ議論していました。
 そして「2005年度までに古紙の利用率を60%以上にする」という挑戦的な目標を、自主的に決めたのです。
 この目標は、再生紙をたくさん使ってもらわなければまず達成できません。今日は紙を作る立場から、70はどんな白色度なのかということを話させていただきたいと思います。
 紙を作る原料は木材です。木材とはセルロース(繊維)とそれをくっつけているリグニンをいいます。繊維は純粋なものは真っ白です。リグニンは糊みたいなもので茶褐色を帯びています。リグニンの糊で繊維をくっつけて木ができているわけです。
 パルプには大きく分けて、機械的に作るパルプと化学的に作るパルプの2種類あります。
 機械パルプは、木材全体を機械で芋をすり下ろすようにして作るパルプです。機械パルプは木材やチップ全体を使うので、非常に歩留まりが高いけれども、そんなに白くはありません。白色度は未ざらしで白色度50ないし60ぐらいです、これを過酸化水素その他で漂白すると、70とか75ぐらいの白さにできます。
 一方化学パルプは、薬品(主としてカセイソーダ)でリグニンを溶かして、繊維を取り出します。化学パルプは、未ざらしのまま使うものは別として、すべて漂白します。そして、白色度で85以上のものができます。
 そうするとパルプの白色度は2種類―50から75ぐらいまでの白色度のパルプと、85以上のいわゆる真っ白なパルプ―ということになります。バージンパルプの紙は、この2種類のパルプを混ぜてつくっているのです。新聞紙ですと、80%ぐらいが機械パルプで、20%ぐらいが化学パルプです。印刷用紙で上級紙と言われるものは、100%化学パルプです。
 次に、古紙をリサイクルして作る脱墨パルプ(DIP )についてです。
 古紙の種類は非常にたくさんありまして、ダンボールは別にすると、新聞用紙とか雑誌の量が非常に多いわけです。新聞や雑誌から作るパルプは、未ざらしですと白色度が大体55程度です。これを過酸化水素を中心とした漂白剤で漂白して、現在では白色度が75ぐらいのパルプが作れるようになりました。10年か15年前までは70が限界でしたが、強力な漂白剤ができたり、脱墨が非常に効率良くやれるようになったりで、かなり白いところまで来ました。
 白い上質系の古紙からだと、漂白して白色度80以上の古紙パルプが得られるわけです。しかし、分別回収で黒っぽい紙と白い紙とを一緒に集めれば、黒っぽい紙のほうにしか使えません。したがって、上質系の古紙はたくさん集まらないのです。
 大まかな数字をいいますと、新聞と雑誌を合わせた黒系の古紙は年間750万〜800万トンくらい集まりますが、上質系の白い古紙は150万tか150万トンプラスアルファ程度しか集まらない。これからもたくさん集まるのは黒系の古紙だろうと予想されます。
 そういったことで、今回のちょうど良い白色度70の紙を作るのには、非常に豊富な新聞古紙系のDIPが使えます。それにほどほどの漂白をすればいいので、作る方からして、この白色度70とか70以下の領域は大変作りやすい良い設定だと思います。実際白色度70ぐらいの再生紙は、ほとんど新聞古紙のDIPで作ります。
 つけ加えますと、機械パルプは非常にたくさんの電気を使いますが、古紙パルプは少ない電気でできます。省エネルギーという面でも大変好都合だと考えております。  今回は白色度70のコピー用紙がテーマですけれども、コピー用紙が使われる量は年間約70〜75万トンぐらいです。紙全体では年間1,800万トンぐらい使われているわけですから、リサイクルをすすめるためには、70%の白色度がいろいろな種類の紙に広がっていくことが大切ではないかと考えています。

三橋 機械パルプの中で、サーモメカニカルパルプというのはどんなイメージですか。

坂 サーモメカニカルパルプとは、木材チップを100度とか110度の高温状態で、回転歯の間に入れ、すりつぶして繊維にしていくいものです。現在、機械パルプの主流はサーモメカニカルパルプになっています。

三橋 白色度70をいろいろな種類の紙にとおっしゃったのは。

坂 70%の白色度であれば、コピー用紙以外の紙も用途はたくさんあるのではないか。そちらのほうにもぜひ展開していっていただきたいし、われわれとしても、そのための働きかけをしたいということです。

三橋 これまでのお話にあったように、白色度70運動は、異分野・異業種の人たちを総動員して知恵を出し合いながら、今日まで広がってきました。
 運動の提唱者である半谷さんから、このあたりのいきさつを含めてお話しいただきたいと思います。

半谷 オフィス町内会が、古紙リサイクルの社会的な定着に貢献したいという発想を持ったのは、10年前のことです。身近なリサイクル、身近な環境問題から社会貢献として取り組んでいこうというのが、私たちの発想でした。
 オフィス街に共同回収の町内会を作ろうとしたときに、試行錯誤がありましたけれども、失敗してもまずそれを具体的にやってみようとしました。共同回収の次は、再生紙の利用拡大・普及に着目したわけですが、この時「ユーザーの白さへのこだわりを克服する」という仮説を持ったわけです。そういうシンプルな発想や仮説を、試行錯誤はあっても実行しました。そういうことがオフィス町内会の役目だったと思うのです。
 オフィス町内会がひとり今日あるかというと、そうは全く考えていません。
 皆さんにオフィス町内会を育てていただいたというか、上手に活用していただいたというのが、本当のところではないかと思うわけです。
 日本青年会議所の皆さんはリサイクルや環境に熱心で、そのシンボリックな「もったいない運動」と白色度運動を連携していただいた。東京都や環境省には政策として上手に活用していただいた。
 せっかくユーザーや行政がこの程度の白さで十分だと納得してくれたのですから、メーカーやサプライヤーの皆さんにも、この運動の発想とか仕組みを、通常の生産や販売の中に上手に活用していただきたい。そして、循環社会を生み出すステップをそれぞれの主体性の中で踏んでいただければ、大変ありがたいです。これはオフィス町内会が今一番願っていることです。
 坂さんからさきほど、「白色度70がメーカーサイドにとっても優位性のある白さだ」というようなご発言がありました。私どものようなボランティアの運動から、企業経営に取り入れていただくことで、納得のうえでの連携ができあがると思うのです。
 『白色度70がちょうど良い』という本で、朝日新聞で天声人語をお書きになった辰濃さんがこんな言葉を述べていらっしゃいます。
 「昔の和歌にしろたへのという枕言葉が出てくる…あれは決して真っ白ではない。生成り色の白さだったのです。私たちの先祖はしろたへのと言ったそれは純白ではなかったのです」 そして、辰濃さんはこう続けます。「なぜそれが純白信仰に変わっていってしまったのでしょう」。その答えを辰濃さんは、「あのころはめざましい経済成長の時代でした。…白ければ白いほどいいとされました。そういう考えによって、私たちが伝統的に持っている白い色に対する美意識が崩れたというとおおげさですが、日本人は少しその辺でうろたえてしまったのではないでしょうか」。
 そしてこう結ばれます。「この運動は…エコロジーのうえから言っても70で我慢したほうがいいという運動ではないのです。…日本人の美意識のうえでも本当は70ぐらいのほうがいい。…決してネガティブな運動ではなくて、むしろ70のほうが80よりも素晴らしいというポジティブな運動なのです」
 辰濃さんにはこんなふうに運動を定義していただきました。
 いろいろな方々とのネットワークでここまできました。これが白色度70運動の原点だと思うしだいです。

三橋 環境NGOとしてのオフィス町内会が、非常に優れていることがもうひとつあります。それは、専従スタッフの経費などを含めたコスト計算をきちっとして、永続性をもって運営しているということです。
 そのあたりのことと、それから、現在の古紙の回収量とそれにともなう取り扱い金額はだいたいどのくらいか、わかれば教えてください。

半谷 オフィス町内会には今1,111事業所の会員がいらっしゃいます。1,000を超えました。そして、会員である46回収会社の皆さんに、1,111事業所を効率的に共同回収していただいています。年間の古紙回収量は1万トン弱にまでなっています。
 オフィス町内会のしくみで基本的なポイントは、古紙をごみにするよりも共同回収に出した方が、コストが下がるということです。もし1,111事業所の会員企業がこの1万トンをごみにしてそれぞれの自治体に回収してもらうと、2億8千万円ぐらいの負担金がかかります。オフィス町内会の共同回収ではそれが1億8千万円ぐらいで仕上がります。つまり1億円ぐらいコストが下がるのです。
 ごみにするよりもコストが下がるという前提で、会員企業は、それぞれの会費を回収量に応じて年間1億8千万円ぐらい払っているということです。そのうち約1億2、3千万円が会員回収会社に回収経費として支払われています。古紙の相場が下がっていますので、回収経費を会員企業が負担するしくみにしたわけです。
 残りの5千万円ほどは、今日のようなシンポジウムを運営するための資金や、専従のスタッフが5名ほどおりますのでその事務局経費に使わせていただいています。

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